院長コラム
2016.05.11
虫歯予防といえば、すぐに歯ブラシやフロスなどのデンタル製品を思いつきます。最近はマウスウォッシュなども一般的になり、口の中の健康をかつてより意識している人が多くなっている証拠でしょう。
けれどもデンタル製品の種類をいくらそろえても、虫歯予防を外部からの作用のみに、依存していることにお気づきでしょうか。人体には自浄作用があります。そして口の中でその大きな役割を果たしているのが唾液なのです。
唾液は古語で「つばき」と呼ばれていました。上品で耳当たりのいい言葉ですね。唾液が人体へ及ぼす影響ですが、一般的に想像される以上に重要な役割を果たしています。今回はつばき、いや唾液と虫歯の関係にテーマを当ててみたいと思います。
食べ物が口の中に入ると、虫歯菌が糖を分解し酸を出します。この酸が歯のエナメル質を分解しています。例えば鍾乳洞やカルスト台地は石灰岩で形成されています。けれどもこの地形は、弱酸性の雨や地下水によって徐々に分解されている過程と言えるでしょう。この化学反応は虫歯と同じですが、人間の歯と自然の石灰岩とは根本的に異なる条件があります。
それは唾液の存在です。唾液にはカルシウムが含まれ、酸によって浸食されるエナメル質を補修します。もちろん大きな虫歯を埋め尽くすほどの補修能力はありません。けれども、口の中に唾液が十分にある状態を保つことは、虫歯の発生を防ぎ、進行を遅らせる素晴らしい作用があるのです。
但し注意すべきこととして、唾液の再石灰化作用は、プラークが歯石になる速度も早めてしまいます。いくら唾液が虫歯予防の力があると言っても、やはりプラーク除去などの日常のケアは欠かせません。
食事をすると、口腔内のpHが酸性に傾いてしまいます。けれども唾液は弱アルカリ性です。また絶え間なく分泌することにより、口の中を中性に保つ役割を果たします。
口の中が酸性のまま維持されていては、唾液の再石灰化作用は、酸性による脱灰、つまり虫歯の進行に追いついていかないのです。口の中が乾燥すれば、体内に細菌やウイルスが入りやすくなります。それを防御するために唾液は分泌されていますが、それと同時にpHを一定に保つことにより、虫歯を予防しています。
山奥の清流へ行けば、岩の上をすべるように水が流れています。この岩には、澱んだ水に浸かった岩よりも、細菌などが付着しにくいことは理解してもらえるでしょう。
なぜ唾液は常に分泌されているのでしょう。それは山奥の清流と同じように、唾液の流れそのものが、口の中に澱んだ部分を作らない働きをしているのです。
そして唾液の凄さは抗菌作用でしょう。昔は怪我をしたら「ツバでも吹きかけろ」と言われたものです。ずいぶん粗野な言い方ですが、実は唾液の中には抗菌物質が数種類含まれています。昔から続く民間療法(?)には侮れないものがあるのですね。
加齢とともに唾液の分泌量は減っていきます。またドライマウスに悩んでいる方にもおすすめできるのが唾液腺マッサージです。
誰にでも簡単に行うことができます。マッサージするのは顔の3つの部分です。
この部分を優しくもみほぐしてあげましょう。唾液は他の体液に比べ地味な存在ですが、あなたの歯の健康に大きな力を発揮してくれます。