院長コラム
2024.10.13
口腔内細菌という言葉を聞いたことがあるでしょうか。私たちの口の中には、700種類以上もの細菌が住み着いています。細菌というと、病気を引き起こすような悪いもののイメージがありますが、実はそれだけではなく、普段は私たちの口の中の健康を保つ役割を担っています。
しかし、口腔内細菌のバランスが崩れたり、私たちの免疫が低下したりした際に、何らかのトラブルが起こることがあります。口腔内のトラブルというと、虫歯や歯周病などのイメージが強いですが、実は全身疾患に関わってくることもあるのです。今回は、口腔内細菌が原因で起こる病気と、その予防方法のお話をしたいと思います。
口腔内細菌が、食べかすを栄養として酸を作り出し、歯を溶かしてしまうのが虫歯の正体です。虫歯を引き起こす菌の代表的なものは、ストレプトコッカス・ミュータンス菌です。
口腔内細菌が歯と歯茎の境目から中に入り込み、歯を支える組織や骨に炎症を起こす病気です。重症化すると、膿が出たり、歯が抜けてしまったりすることもあります。歯周病菌として有名なのは、ポルフィロモナス・ジンジバリス菌などです。
口の中にカビの仲間の細菌が増え、痛みや違和感、味覚障害などを起こす病気です。特に、免疫の低下している高齢者に起こりやすくなっています。
口腔内細菌が誤って気管から肺に入り炎症が広がると、肺炎を起こすこともあります。食事の際に頻繁にむせたり、以前より時間がかかったり、呼吸が苦しかったりなどの症状から始まります。特に、飲み込む力が衰えている高齢者や、脳血管疾患や筋肉の疾患などで飲み込む力が上手く機能しない患者さんなどは注意が必要です。重度の場合は命に関わることもあります。
口腔内細菌が血液に乗って全身に周り、心臓に感染を起こして心疾患を引き起こす場合があります。こちらも、命に関わることもある危険な病気です。
口腔内細菌による病気を予防するには、やはりブラッシングが基本です。毎食後のブラッシングにより、口腔内細菌の数を減らすことができ、感染のリスクが低くなります。また、歯ブラシだけでなく、歯間ブラシやデンタルフロスなどの補助清掃用具を使用することで、効果的に口腔内細菌を減少させることができます。
歯だけでなく、舌の上も掃除してみましょう。舌専用のブラシを使ってもできますが、歯ブラシで優しくこするだけでも効果があります。
自分で歯ブラシを持つことが困難な方には、口腔ケアを行い、口腔内細菌による感染を予防しましょう。口腔内を、口腔ケア専用のウェットティッシュで拭くだけでも効果があります。専門的な口腔ケアを受けるには、往診してくれる歯科医院に相談してみてください。入院中であれば、看護師さんに相談してみましょう。
薬局や歯科医院で様々なうがい薬(洗口液)が売られています。口腔内細菌を洗い流してくれるだけでなく、殺菌成分や炎症を抑える成分が含まれているものも多くあります。ブラッシングの後に使用すると効果的です。自分に合ったものを探してみるのもいいと思います。
口腔内細菌による感染症がひどい場合は、抗生物質を投薬し、一時的に炎症を抑えることも行います。しかし、これは根本的な解決にはなりませんので、炎症が落ち着いてから、医療機関で受けるべき治療をしっかり受けることが必要です。そして、基本的には口腔内を綺麗に保つこと以外に改善方法は無いということも覚えておいてくださいね。